SEIKO ACTUS 6306-7010 (その1; カスタマーフレンドリーな名機)

先日、セイコーの名機の一つ6146をご紹介しましたが、こちらも素晴らしいムーブメントです。分解掃除をしてみて、この時計の素晴らしさ(正確には「親切さ」)に感動しました。これを共有したいと思い、ご紹介します。
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(ウーン、背景と秒針まで良く合ってるネ!)

セイコー アクタス ACTUS
cal. 6306A
1976年~(この個体は1976年10月製)
自動巻き
21600回/時(6振動)
21石
Second Setting機能あり(ハック機能)
黒のシャイニー・アリゲーター竹斑を着せて



ACTUS アクタスと言えば、cal.6106なんかが有名ですが、こちらは、クォーツ時代に突入した70年代後半に新たに開発された、「古時計」と呼ぶには新しめの時計です。機械式末期のものです。
もはや国内での需要は減少していく時期だったのでしょうが、アジアでのファイブをはじめとする機械式はまだまだ人気があったので、この6306Aの開発は外へ向けたものだったと考えられています。
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このキカイには、はっきりとしたコンセプトがあります。
セイコー自動巻きの長所をたくさん残しながら、構造をシンプルにし、メンテナンスをしやすくするということです。

実際に、機能として、日・曜日それぞれの早送りができ、秒針のハック機能もあるという優れものである一方、ネジの種類や部品点数が減らされており、洗浄や組立が非常にやりやすくなっています。
何をもって「名機」というのか私はよく知りませんが、とにかくこの時計は、非常にカスタマーフレンドリーな名作です。
(※ここではカスタマーとはジャンクをいじる消費者のこと)

なにしろ、全アラビア数字なので、単純に、いい時計と言えます。
(3時位置はオマケします)

分解編では、私のようなビギナーにも親切だった、この時計の長所をたくさん紹介してゆきます。

入手時。風防が傷だらけですが、プラだったのでよかったです。
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純正のブレスを外すと、この汚れ。風防含め、一見汚い時計でしたが、中身はキレイなほうです。
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いつもどおり、明工舎の固定台と二点爪式のオープナーでグリっと。
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私は、保持器の底面にゴムのシートをくっつけています。滑りにくいので。


裏蓋のOリングはカピカピでしたが、中はキレイです。
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これをぱっと見ても、ネジの大きさがそろっていますね。
ローターは、扇形で、軽いです。もっと重くて、面積が広くないと心配になりますが。十分な巻き上げ効率がありました。



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シミ、キズひとつない文字盤です!プリントで数字の形も愛らしいので、ちょっと安っぽく見えますね。でも私は好きです。全アラビア数字
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ちょっと文字盤がゴチャついているのが玉に傷。
アクタスとSSは仕方ないでしょうけど、まあ21石と諏訪マークはなくてもいいかな。


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針を外します。新しいキカイはそういうものなのか知りませんが、以前のシャリオのときもガチっとはまっており、力を入れるのでちょっと心配でした。

部品が少ないというのは、スペーサーにも反映されています。
このキカイは、文字盤とムーブメントの間にスペーサーが入っていて、あとはそのままガワに収まっています。機留ネジも存在しません。

スペーサーとムーブの位置関係上、スペーサーを外すまではムーブ台に置けません。
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この一つのスペーサーだけ外せばいいのです。

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今回は文字盤側(裏面)から分解しました。↑Cリングを外します。


曜車を外したところです↓

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新しめのキカイには樹脂製パーツが比較的多く使われます。だから安い&悪いというわけではないのです。ただ、今後も長いこと使うとやはり劣化は早いんでしょう、金属よりは。
面白いのは、大きいオサエが左右に分かれています。ふつうは丸いのがドカッとかぶさっています。右上のが「日車オサエ」、左下の手がついているのが曜躍制レバーと呼ばれます。分かれていると、組立の時はやりやすいですよね。


この、左下に見える日躍制レバーが、レバー・バネ一体型です。これはいいです。
いつもだと、ちっちゃこいバネがあって、日の裏をやるときに神経を使います。
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右側にワニの口のような?でかいのが見えます。これは、デイデイト早送り用の切替車と言います。リューズを引っ張るとこれがワークします。
上下に二つ歯車がありますが、下側のが左右に遊動します。
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リューズ一段引きの状態で右に回すと、この遊動歯車が、右側に移動して右回転し、日車を送ります。左に回すと、歯車が左側に異動して、左回転し、曜車を送ります。
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毎日違う時計を使うので、あまりデイデイトを合わせる習慣が有りませんが、こういう時計なら時々合わせたくなります。


あとは巻き芯周りを外します。
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ざーっと外します。
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どの部品も、ネジもあまり傷んでいません。ほとんどメンテ歴がないのでしょう。
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全部はずしたら、ひっくり返して、表輪列へ移ります。
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ローターは外しておきました。

テンプにも大きな仕掛けがあり、ヒゲゼンマイを外しやすい「ヒゲ外端固定式」というやつです。右上の四角い部分がそうですね。脱着が楽で、水平度も安定して出せる、とのことです。
ですが、別に私は外しません。あくまで時計修理屋さん向けのものです。


さて、キレイな状態なんですが、外していて気付いたのですが、どうもモリブデン入りのようなグリスを、自動巻きや香箱に使っているのでしょうか、粉っぽさが目立ちました。


こちらはマジックレバーの手がかみ合う、伝え車です。ピントがずれていますが、歯をよく見ると黒い塊が付いています。マジックレバーの手にも。
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マジックレバーを抑えているパーツは樹脂です。しかもネジドメではありません。
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樹脂製ですので、すこしだけ径の小さい穴に押し込むだけでいいんです。これもわりと組立の時には便利でした。
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この時計は、大空に羽ばたくバネ類はありません。

ただ一か所、自動巻きの受けを外したときに、角穴車とかみ合う、ローターからの力を伝える「伝え車」がビョーンと飛んでいきます。まあ、大丈夫なんですが。
この写真も、飛んで行ったものを撮影用に乗せたものです↓
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テンプを外して
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角穴車を外します。芯のあたりに黒い粉がふいています。
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受けを外します。上のほうに外したコハゼが見えますが、シンプルなのです。ネジもありません。このように鉄砲のような形をしたコハゼを、穴にスっと入れるだけです。ちっちゃい、なくすバネがありません。
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そして、輪列の歯車です。最初、歯車にある大きな穴は軽量化だと思いましたが、どうも、そうではなく、どれが何番目の歯車かわかるような目印だと推測されます。
中央に見える四番車には4つの穴。
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三番車には三つの穴。

三番車の下に見えるのが秒針規制レバーです。これもネジ留不要。
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もちろんこのように二番受けは独立しているので組立のとき、受けをはめるのが簡単です。

アンクル、ガンギを外しましょう。二番車には2個の穴が開いています。
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洗浄や組立の時、油断すると2、3、4番車がどれかわからなくなるということがありますが、このキカイなら安心、というわけですね。

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あとは裏に行って、ツツカナを外して、二番車を外せばおしまいです。

ルビーのあたりがこのように汚れていました。
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これは2番車のルビーです。うーん、モリブデン入りのゼンマイ用グリスですかね?モリブデンは抵抗を上げることはないみたいなので、別にいいのかもしれませんが、汚い感じなので、よく洗います。
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ダイヤショック、ダイヤフィックスも外してよく洗いました。


長くなってしまいました。
今日はこんなところで。

次回、その2;組立編もよろしくお願いします。




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