今回は、これについて少し調べてみました。
以前、記事にしましたが、腹の部分にこの穿孔が無いものはクロコダイルではなくアリゲーターやカイマンである、という、ワニ革の種類を判断する一つの基準になります。
ただし、原皮から、革を作る過程で見えにくくなるものもあるようです。
アゴにもあります。
さて、この穴ですが、皮革の業界では、単に穿孔と言ったりするようです。ちょっと専門的にはピット、とも言うようです。
これは、ある感覚器官の痕跡なのです。
生物学的には、Integumentary Sensory Organs (ISO)とか、Dome Pressure Receptor(DPR)と呼ばれているようです。「外皮の感覚器官」とか「ドームの形をした圧力を感じる受容器」ということでしょうか。
ヒトも、皮膚で何かに触れたりすれば、いわゆる感覚神経というやつが、少し下の真皮というところに神経が通っていますので、そこで感じます。
皮革になる前の、本来の姿はこのように、メラニンの色素がふくまれるブツブツなんですね↓
顔にたくさんのブツブツが見えますね。
爬虫類に限らず、鳥類や哺乳類もそうですが、一番上の部分はケラチンというタンパク質(爪がわかりやすいですね)のおかげでカチカチになっていて表面に硬度を与えるわけです。ただし、原皮を「革」にする間に、酸処理やアルカリ処理、ナメシ処理など複雑な過程を経るため、このカチカチな部分はほとんどなくなります(少なくとも腹側は)。「革」として残るのは豊富なコラーゲンの繊維がメインになるということです(これは真皮の部分にたくさん含まれるタンパク質ですね)。
話が少しそれましたが、とにかく、爬虫類の場合、我々よりずっとゴツゴツして、まるで鎧を着ているようですね。カメなどもっと顕著ですが。
そんなことはないのです。
実は、ワニのアゴはヒトの指先の10倍も繊細なものだということがわかってきたのです。
学者が大昔からいろいろ調べているようですが、この繊細なISOという器官が水圧の微妙な変化をとらえて、川の表層にいる獲物を暗闇の中で捕まえることもできるのです。つまり、ワニの強さを支えている大事な器官ともいえます。
ただ、ごく最近の研究によれば、ISOという器官は、Pressure(圧力)だけでなく、実に様々な感覚をキャッチしているすごい器官であることもわかってきました。
これは、ISOが感じる電気的な信号をとらえたものです。
上から、機械的刺激、温度変化、酸アルカリ変化、化学物質の変化を実験的に与えたときどうなるかを見ています。
いずれの刺激に対しても、ある強さを超えると、電気信号が強くなります。
面白いですね~。
あんなにゴツゴツしたワニの表面のプツプツがこんなに色々なことを感知してワニの
行動を制御するセンサーになっているのです。
興味深いのは、冒頭でもお話ししたように、種によって穿孔(ISO)があるものとないものがいるということ。それが革の判別の手になる、とお話ししました。
しかし、どのワニもアゴにはISOを持っています。
おそらく泳ぐときに「船首」に相当する重要な部分はアゴだからでしょう。
また、腹や背中には、ウロコ(斑)に一つISOがありますが、アゴのウロコには複数あるようです。
クロコダイルは、腹にもアゴにもISOを持っています。
この写真は分かりにくいですが、Dという領域にもISOがあります。
それぞれ、ドーム状に膨らんでいます。これがISOです。
下の図で、傘の下に緑や赤のポツポツがありますが、これは神経線維を示しています。どの場所でも同じようにこのように繊細な神経が通っています。
それに対して、こちらはカイマンですが、Gの領域(腹)にはISOが無く、下のカラフルな図でも、アゴとは雰囲気が違いドーム状のISOがありませんね。
なるほどー。
単純に考えると、カイマンの腹は感覚が鈍いんですねー。くすぐってもばれないんでしょうね。アリゲーターも腹にISOがありません。
それに対して、クロコダイルは実に繊細なやつらなんでしょうかね。
このISOの分布の違いは、生息場所なんかと関係するのでしょうか。ともかくアゴが繊細であることはどのワニにとっても大事なことなのでしょう。
こちらはカイマンの皮革です↓
アゴの部分はクロコとそっくりで、ボケていますが、穿孔がありますね。それに対しておなかの部分にいくと雰囲気が変わります。穿孔がありません。ま、じつは、シワがあるゴツゴツのカイマン特有のウロコになるので穿孔の有無はよくわからないですね。
うーん、勉強してみると、このポツポツもなんだか見え方が違ってきます。
きっと繊細であったであろうワニ君たちの革ですから、私たちも、大事に大事に時計用ストラップを作り、大事に使いましょう。そう思いました。
今日はこんなところで。
ありがとうございました。
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