TISSOT PRX POWERMATIC 80 35MM
今日はティソのピーアールエックス、パワーマチック80 35ミリをご紹介します。
型番:T137.207.11.111.00
サイズ:35 mm(りゅうず除く)
ムーブメント:自動巻き、Powermatic80(ETA C07.111)、23石、80時間パワーリザーブ、21600振動/時(6振動/秒)
防水:10気圧(100m防水;非ねじこみりゅうず)
素材:316L ステンレススチールケース、サファイヤクリスタル
その他:マザー・オブ・パール (白蝶貝)文字盤、インターチェンジブル クイックリリースブレスレット、裏スケルトン
というのが主な特徴です
ティソの時計を手に入れたのはまだ2本目で、以前、持っていたアンティークの手巻き以来です↓
TISSOT cal.27 手巻きスモセコ(その1:分解編) - 古時計にワニ革着せて
①箱を開けた喜び ~10万でこの美しさは嬉しい~
コスパがいいと言えばそれまでですが、そういうと失礼なぐらい頑張っていると思わされる時計でした。定価113,300円というのは、スイス時計の愛好家からすれば非常にお安い時計なんでしょうが、私にとってはやはり10万越えのものは身構えます。
たまにはこういうのもワクワクします。箱を開けるときがね。うーん、すごくカッコイイ!ロイヤルオークかとおもったよ!
保証書がついてる時計なんてほんとに久しぶり、無駄に写真を撮ってしまいました。
ケース形状と、文字盤の控えめな七色の輝きが美しい!これが11万円定価なんて、素晴らしいぞ、ティソ!というか他のメーカーがぼったくりすぎなのか、ちがうか??
各メーカーがこぞってやっている、ラグスポ・ゾンビ復刻商法;ジラールペルゴのロレアート、モーリスラクロアのアイコン、ピアジェのポロ、ショパールのアルパインイーグル:の流れでしょうか、ティソのPRXも1978年のオリジナルのモノがあって、ジェンダっぽいいわゆるラグスポでしたが、(それに加え、昔のシースターというモデルの血もひいてるのかも?)それの現代版ということで復活しました↓
いずれにしても他のブランドと違って価格設定が素晴らしい。庶民が手を出せるのに、外装のデザインや質感、そして自動巻きムーブ、まさにラグスポと言って支障ないモノでした。
ちなみに、PRXピーアールエックスというのは、”Precise and Robust(高精度かつ堅牢)”と、10 気圧防水性能を表す“X”の頭文字を組み合わせたものだそうです。
②ムーブメント ~ジャンク好きにお馴染みETA2824-2の進化型~
一方で、ムーブメントについては、スウォッチグループのミドルレンジブランドのエントリー時計の限界というか、高級志向の人には受け入れられないのかもしれません。
まず、裏スケは、美しさを鑑賞するというのとは違ってセイコーファイブと思っていただければよいです。装飾・仕上げは一切なく、波線&TISSOTマークも、なんということもありません。それでもこのムーブメントの見せてくるというのは、この完成度の高いムーブメントを誇りに思ってるからかもしれません。それに、分解好きや機械式好きな持ち主にとっては楽しいのです、ついつい、外したときはテンプの動きを見てしまいます。
キャリバーナンバーはC07.111(Powermatic80)で、2011にETAが開発したC07.XXXシリーズの一つです。直径25.6mm(11 1/2''')。下記に引用したとおり、スウォッチとETAは、名作ETA-2824-2のパテントが切れること、また、パワリザが38時間しかない短所の解消のために、超定番の2824-2を進化させたこのムーブメントを生み出しました↓
ETA2824と多くのパーツが基本的には同一で、パーツ総数も同じだけれど、実は、細部にわたり見直しをはかっていて、2824とは違う部署で製造・組み立てしているのだそうです。素材も、ARCAP アロイという(銅、コバルト、チタン、鉛、亜鉛)耐磁性の合金を使っているとか。
また、パワリザを伸ばすキモの調速系と香箱に重要な変化がありました。端的に言えば、振動数を、ハイビート寄りの毎時28800振動/時(8振動/秒)から、ロービート域の21600振動/時(6振動/秒)に減らしています。素人でも振動数を減らすとエネルギーの消費が減るので、パワリザが長くなるというのは覚えてます。さらに、主ゼンマイも変更されていて、長さは従来の2倍くらいに長く、厚さは薄いものに変更されているのです。↓こちらの動画で説明されてます。
Could this be the future of the Powermatic 80?
一般的に、ロービートになると精度が落ちやすいという欠点がありますが、それは、アンティークウォッチとは異なり、最新技術でカバーしているということです。上に貼り付けたムーブメントの写真の通り、従来あったはずの緩急計のフォークがありません (調整はテンプに付けられたナットによって行われるようです) 。昔は、時計職人が、修理の際に調整するというのが常識でしたが、現在では、マルっと、調整された新品と交換するというのが一般的で、このムーブにおいても、効率化と正確さのために、テンプ・調速機を一式「モジュールとして扱う」ことがミソなようです。テンプはニバクロン製ひげゼンマイを使用しています。
ひとつ重要なのが、C07.XXXのシリーズのうち、この入門機C07.111は、ミドルレンジのティソやサーチナなどのブランドが導入していて、石数が25じゃなくて「23」という点です。これは「脱進機に特殊素材を採用し」などと書かれますが、要するに樹脂を使ってるいて、アンクルに石が(二つ)無いのです。私も分解してないので生で見たわけではありませんが、ネットですぐに見つかります↓
スウォッチの使い捨て自動巻き「SISTEM51」でも、ガンギ車が樹脂だったのを見ましたが、どんなにPRXがかっこよくて安いとは言っても、機械オタクはここを許せないかもしれません。でも裏スケから、目を凝らしてみても、この二つのパーツは見えませんのでご安心を。
一方で、少しグレード上がって、「ハイレンジ」ブランドのロンジンやラドーのムーブメントには、C07.611が使われていて、25石で、これまで通り、金属とルビーで構成されています。また、C07.811というこのムーブシリーズのトップモデルはC07.811クロノメーター機には、さらにシリコン製ひげゼンマイを搭載しているのです。
左が緩急計有りのシリコン製ヒゲゼンマイテンプの高級機(25石)、右がPRXに使われてる入門機(23石)
このように、ちゃんとシリーズをグレード分けして使っているので、この価格のティソPRXにプラパーツが入ってることは受け入れるしかないのです。クォーツに樹脂歯車がたくさん入ってるのを考えれば、そんなに嘆くこともなく、技術革新と見ればいいのでしょう。ですが、プラ同士のはじくアンクル・ガンギの音が小さい。耳に当てても、せっかくのロービートのチクタク音が、ちょっと聞き取りにくいのです。
③ケース ~35ミリのサイズ感が素晴らしいのです~
アンティークじゃなくて、現行時計で私の最も好きなサイズのモノが買える日が来るなんて嬉しいです。時代は回りますね~!
何しろ、35ミリ、35ミリですよ。素晴らしいですよ、細腕の皆さん。昨今の小径化の流れの中で、われらが国産セイコー&シチズンのダウンサイズ化がチンタラしてる中(と私は思うんですが)ドーンと35ミリですよ!ティソったら偉い。35ミリは、私の持っている中で言えば、ヴァシュロンのオーバーシーズミディアム、ザシチズンの年差クォーツが、ちょうど同じサイズです。ヨットマスターは34ミリ。
PRXは、2021年に現れて、最初は40ミリクォーツ、40ミリの自動巻き、35ミリのクォーツ、42ミリの自動巻きクロノグラフ、、、ときて、2023年の9月に、ついに満を持して35ミリの自動巻きですよ。以前、40ミリのPRXを見たことがあったんですが、デカくて、文字盤は綺麗なんだけど、間延びしてると感じました。特に凹凸の無いクォーツモデルは色を楽しむのはともかく、ちょっとシンプルすぎるかな、というイメージでした。
詳しいサイズは、横幅(竜頭のぞく)35mm、厚さ 10.9 mm、ラグ幅 11mm、ここまでは、公式データとしてありますが、細腕には縦幅も大事。ラグからラグまで約39 mmです。とてもつけやすい。
主に平面&直線的なデザインのケースです。ケース形状だけで言うと、第一印象としては、実はラグスポっていうよりロレックスのオイスタークォーツです。
ほら↑どうでしょう
ベゼル以外は、ヘアライン仕上げで、スポーツウォッチらしさを感じます。シンプルですが、エッジの部分に丁寧な仕上げがなされていて、キラキラしています。高級感も漂います。
ルーツであるティソのラグスポからの現代解釈がどうだったはともかく、また、他のラグスポをどのように意識したか、等の考察もともかく、そんなに薄くないかな、という印象を持ちました。もっと薄さを頑張ると最高峰のラグスポ的雰囲気に近づくのかもしれません。
私の場合、オーバーシーズ(1stモデル;42050)しか経験ありませんが、あれと比べるとやはこのように斜めから見ると文字盤からの距離を感じますし、ベゼル高さがちょっと気になる感じ。オーバーシーズ42050は、公式の厚さ8mmで、当時150m防水だったということですから、すごいです。
厚さというのは、防水性やムーブ厚さ等いろんなものから決まってくる数値ですから、大変なのだとは思います。これでも十分、薄型です。
真横から見るとこんな感じです。いやー、かっこいい。
りゅうずのシンプルなTマークも悪くないです。りゅうずはちなみにねじ込みリューズではありません。10気圧防水(100m)とは言ってもただのパッキンです。
また、防水と言えば、裏蓋は、スクリュー式ではないです。また、全周探しましたが、特にコジアケの隙間を探すことができません。むりやり差し込んで開けるのか?
④ブレスレット
ケースからラグが一体的につながるラグスポ的デザインです。
ブレスのコマは「一連」で、駒の幅が狭く、隙間も空いているので、しなやかに曲がります。
でも無垢なのでシャラシャラしたものではありません。また、裏側に突起が出ていて、バネ棒外しを使わなくても傷つけずに取り外しができるタイプです。カミーユ・フォルネのアビエ仕様みたいな。
このように外せます。
便利ですね。爪がちょっと伸びていれば割と簡単です。装着するときにはしっかり狭めて奥まで入れるように気を付けます。
替えバンドは付属はしてませんが、専用のレザーあるいは合成素材のストラップに換装できるということです。これは汎用性が無いから、メーカーオリジナルのものしかだめですが、1万円もしないので、気軽に試す人も多いと思われます。
40ミリサイズのPRXの場合は、こっちの↓ラバーバンドが選択できるのに、35ミリには無いのはちょっと残念です
さて、ブレスの長さ調整です。
新品を買ったと言っても、ドラのび太ですから、素敵なブティックとか正規店とかいうことではなく、ネットで買ったもんですから、さっそく自分でやります。
中級時計だからか、コマのピンは「割ピン」でした。いや別にCリングがそんなにイイとも思いませんが。
バックルは、両側開きのプッシュボタン式で、しっかりはまり、安心感がある上に、外しやすいです。
ちゃちさは全く感じません。TISSOT1853のロゴ
手首の裏側を見ても良い感じです。
ちょっときつくしすぎたかな、1コマの長さは短いほうですが、普通のブレスみたいにバックル部分のバネ棒で微調整できるほうが便利といえば便利だよね。
⑤文字盤デザイン ~シンプルだけど色気があり視認性も高い~
いやー美しい。文字盤カラーは金メッキを除くSSには、ブルー、ブラック、グリーン、アイスブルー、マザーオブパールがあり、どれも魅力的だったのですが、この、マザーオブパールにして大正解でした。他のメーカーの中級ラグスポ的時計にはあまり設定されていません。
マザーオブパールって真珠の母貝という意味で、昔から宝飾、時計に使われていたんですね。白蝶貝;シロチョウガイが一番多いみたいです。シェル文字盤というのは初めての経験ですが、この絶妙な輝きが、いいですね。光り過ぎず、ちょっと傾けると虹色がぼんやり。
また、ロイヤルオークをマネしたエンボス加工(ワッフル・格子模様)が最も気に入った点です。シンプルだけど、文字盤に適度な密度感を与えてるように思います。
もう一つ、秒針がしっかりとマーカーに届いているのがすごく良いポイントですね。見やすいし、緻密に作られていると感じます。
それから、他の文字盤カラーと最後まで悩みました。白だと視認性が悪いんじゃないか、ということです。ネットの写真や動画で見比べても、視認性は劣るという印象でした。暗い色のほうがコントラストがあり、見やすいのは間違いないと思いまですが、このシェル文字盤も使ってみると大きな問題はありませんでした。
時分針は太く、中央を一段下げてヘアラインと夜光がある少し立体的なデザインで、縁がくっきりしていて、キラキラしたパールの文字盤からはやや暗く、浮き上がって見えるからです。しっかりコントラストがある、ということです。
もう一つ、短所となり得るところを上げるなら、分針が時針と同じように先端がとがっていないので、読み取りやすさは最良ではないでしょう。個人的には、デザイン的にはこのほうが好きだし、とがっていなくても分針もしっかりと長くマーカーに届いているから見づらいとは思いませんでした。
夜光は細くて、特にインデックスに強い光はありませんが、このように暗所でも青っぽいルミノバが光り、時針と分針の長さもはっきりと違っているので、読み取りやすいです↓
ケースのところでも言いましたが、激薄って感じではなく、特に、文字盤からガラス面までちょっと距離があるように感じる。このように斜めから見ると、良い言い方を言えば、奥行きがある感じですね。
以上、ティソのPRX 35mm 自動巻き・マザーオブパールの紹介でした
一念発起して購入した新品時計なので、気合が入って長文になってしまいました。
結論、PRX35mmは、傷ついてもショックは大きくない値段で、素晴らしいサイズ感、そして、アンティークっぽい針のチクタク感を味わいながら、(プラスチックのガンギ車に思いをはせながら)ラグジュアリーな気分になれる時計です。「細腕プアマンズロービートラグスポ」という愛称で大いにオススメしたいです!
そうそう、大事なPRポイント、80時間のパワリザは、何本も時計を使いまわすオタクには嬉しいところでした。それから、さわやかなイメージの文字盤かつ防水性もあるので、特に夏に出番が増えそうですね。
今日はこんなところで。最後までお付き合いいただきありがとうございました。